電子材料業界の「なぜ?」を読み解く
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電子材料徒然草

電子材料・PCB・半導体業界の「なぜ?」を読み解く

管理人 平賀 兼好 (ひらが ケンコウ)

光電融合とは?電気配線を光に変える次世代技術と半導体パッケージへの影響

― AI時代の「光と電気」の境界で、電子材料はどう変わるのか? ―

最近、半導体やデータセンターの現場で「光電融合」という言葉を耳にする機会が増えています。では、光電融合とは一体何なのでしょうか。簡単に言えば、これまで電気で処理・接続していた領域に光技術を取り入れ、コンピューターやネットワークの中で光を使う範囲を広げていく考え方です。NTTもPhotonics-Electronics Convergence(PEC)として、電気で扱ってきた領域を光へ置き換え、ネットワークからコンピューター内部まで光技術の適用範囲を広げる方向を示しています。NTT IOWN「PEC」

光電融合とは何か、AI・電気配線・光信号・半導体パッケージ・電子材料の関係を示した概念図
図:光電融合の考え方と、AI・半導体パッケージ・電子材料との関係を示した概念図。特定製品の構造を示すものではありません。

1.そもそも「光電融合」とは?

コンピューターの中では、データを電気信号として運ぶ場面が数多くあります。ところがAIやHPC(高性能計算)の処理能力が高くなると、チップ間でやり取りするデータ量も増えます。

そこで考えられるのが、データを光信号として運ぶことです。光電融合は「光だけでコンピューターを作る」という意味ではありません。重要なのは、電気が得意なところと光が得意なところを組み合わせることです。

電気電子回路・演算・電源など
+
光高速・大容量のデータ伝送
=
光電融合光と電気を適材適所で組み合わせる

NTTは、電気は高速化・伝送距離の延伸に伴って消費電力が増加しやすい一方、光は条件が変化しても消費電力の増加を抑えやすい特性があると説明しています。こうした特徴を利用し、高性能化と低消費電力の両立を目指すのが光電融合の大きな背景です。NTT IOWN「PEC」

2.なぜ今、光電融合が注目されるのか?

大きな背景の一つがAI・データセンターの高速化です。GPUやAIアクセラレータ、HBMなどを使ったシステムでは、チップ間・パッケージ間・ボード間で大量のデータを動かす必要があります。

データ量が増えるほど、単純に「もっと速い電気配線を作ればよい」という問題ではなくなります。帯域、損失、消費電力、発熱、配線密度、実装距離などを同時に考える必要が出てきます。

AIの高性能化から光電融合へ
AI・HPC演算量・データ量が増える
→
チップ間通信帯域・距離・電力が課題
→
光を使う光インターコネクト
→
光電融合光と電気を組み合わせる

図:AI・HPCの高性能化が、光を使ったインターコネクトへの関心につながる流れを示した概念図。

3.「光電融合」と「CPO」は同じなのか?

ここは混同しやすいところです。光電融合は広い技術概念であり、CPO(Co-Packaged Optics)は、その中で注目される光・電子デバイスを近接・一体的に実装するアプローチの一つと整理すると分かりやすいでしょう。

AI向け半導体パッケージでは、電気信号を遠くまで引き回すのではなく、光変換部をよりチップに近づけることで、高速なデータ移動を実現しようとする方向があります。光電融合研究では、半導体パッケージ基板に光デバイスや光導波路を組み込む研究も進んでいます。

産総研の光電融合研究センターでは、デバイスからパッケージ、ネットワークまでを対象に研究を進めており、光電融合パッケージやポリマー光導波路などが研究対象として挙げられています。産総研 光電融合研究センター

4.ここからが「電子材料徒然草」の本題

光電融合というと、光デバイスや通信技術の話に見えます。しかし材料屋の目線で見ると、かなり面白い変化が起こります。

なぜなら、光を使うには光を通す材料、光を曲げる構造、光と電気を変換するデバイス、それらを保持するパッケージ、そして電気信号を伝える従来の配線が必要だからです。

材料・技術光電融合で考えたい役割
銅配線・銅箔光に置き換わらない電気配線を担う。光電変換部の近傍でも重要。
低Dk・低Df樹脂電気信号として残る高速伝送部分の損失低減に関係。
ポリマー光導波路光信号を基板やパッケージ内で導く材料・構造。
ガラス・ガラスコア寸法安定性、微細配線、光学・実装基盤などの観点で関係。
放熱・接合材料光電変換デバイスや高性能チップから発生する熱を扱う。

産総研では、電気回路基板上のポリマー光導波路、マイクロミラー、光ファイバコネクタなど、光をパッケージへ組み込むための要素技術も研究されています。産総研 光パッケージング研究チーム

5.光電融合で「銅配線はなくなる」のか?

ここは、材料屋として最も誤解したくないポイントです。

結論:光電融合=銅配線が全部なくなる、ではありません。

光電融合では、どこを光でつなぎ、どこを電気でつなぐかという境界の設計が重要になります。光信号を作るまで、光信号を電気信号へ戻すところ、電源を供給するところ、制御するところなど、電気が必要な領域は残ります。

したがって、将来の材料競争は「銅か光か」という二択ではなく、光と電気をどう組み合わせ、どこまで近づけるかという方向へ進むと考えると理解しやすいでしょう。

この視点は、これまで扱ってきた銅箔・CCL・低Dk/低Df材料の記事ともつながります。電気配線が残る場所では高速伝送材料が必要であり、光を使う場所では光導波路や光実装材料が必要になるからです。

6.光導波路が「材料テーマ」になる理由

光を基板やパッケージの中で運ぶには、光導波路が必要です。特にポリマー光導波路は、電気回路基板やパッケージとの一体化を考えやすい材料技術の一つとして研究されています。

ここで材料屋が見るべきなのは、単純な「光が通るか」だけではありません。光損失、加工性、寸法精度、耐熱性、信頼性、他材料との接着、実装工程との適合など、電子材料でおなじみの複数の条件が同時に出てきます。

つまり、光電融合が進むほど「光学材料」と「電子材料」の境界が近づいていく、と見ることができます。

7.既存の「低Dk・低Df」技術も無関係ではない

光電融合が進んだからといって、PCBやパッケージの電気配線が一気に消えるわけではありません。光に置き換えない部分では、引き続き高速電気信号の伝送が必要です。

そのため、Dk・Df、銅箔表面の粗さ、HVLP4、CCLといった既存テーマは、光電融合時代にもつながります。

一方で、光配線を実装する側では、ガラスコアや新しい光導波路材料など、これまでのPCB材料とは少し違う技術が重要になってきます。

8.光電融合の材料を見るときの4つの視点

① 電気低Dk・低Df
低損失銅配線
② 光光導波路
光変換・結合
③ 熱・機械CTE・反り
放熱・信頼性
④ 製造微細加工
実装・量産性

ここまで見ると、光電融合は「通信技術だけの話」ではないことが分かります。材料メーカーにとっては、電気・光・熱・機械・製造を一つのパッケージの中で成立させる材料設計が新しいテーマになります。

平賀兼好の今月の徒然
「光電融合」という言葉だけを見ると、銅配線から光配線へ一気に世界が変わるように感じます。

しかし材料屋の目線では、むしろ逆です。光と電気が近づくほど、その境界に新しい材料が必要になるからです。

低Dk・低Dfの樹脂、低粗度銅箔、ガラスクロス、ガラスコア、ポリマー光導波路、接合材料、放熱材料……。これらは別々の話に見えて、実は「AI時代に、データをどう動かすか」という一つの問題から枝分かれしています。

光電融合をニュースとして追うだけでなく、「この光は、どの材料の上を、どんな構造で通るのか?」と考えてみる。そこから先が、電子材料徒然草の出番なのかもしれません。

まとめ

参考・確認した公開情報
NTT IOWN「PEC(光電融合技術)」:光電融合の定義と、コンピューター内部まで光技術の適用範囲を広げる方向を確認。
産総研 光電融合研究センター:デバイス・パッケージ・ネットワークを横断する研究内容を確認。
産総研 光パッケージング研究チーム:ポリマー光導波路、光電融合半導体パッケージ基板などの研究内容を確認。
産総研 2026年度光電融合研究センター公開シンポジウム:光電融合、CPO、ポリマー導波路材料などの先端パッケージ材料の論点を確認。
本記事は公開情報をもとにした基礎解説です。個別製品の仕様、性能保証、将来の市場規模を示すものではありません。
電子材料徒然草・おすすめ読書ルート
  1. AIパッケージ
  2. 光電融合
  3. ガラスコア
  4. Dk・Df
  5. 銅箔粗さ
  6. HVLP4
  7. CCL